個人事業主として脱毛サロンを経営していると、法人化を検討するタイミングがやってきます。サロンの法人化には、経営におけるさまざまなメリットがありますが、個人事業主と異なる部分が多いため、慎重に検討しなければなりません。
そこで今回は、脱毛サロンを法人化するメリット・デメリットについて詳しく解説していきます。法人化の流れもまとめているので、あわせてご覧ください。
脱毛サロンで法人化を検討する目安
個人事業として脱毛サロンを運営している場合、売上や利益が一定以上に達したときが、法人化を検討するタイミングといえるでしょう。
たとえば、課税売上高が1000万を超えると、課税事業者になり、消費税の納付義務が生じます。しかし、このタイミングで法人化すれば、条件を満たしてる場合に限り、最大2年間の納付が免除されます。
このほか、事業所得が800万円を超えたときも、法人化を検討する機会です。所得税は累進課税ですが、法人税は比例税率のため、所得が800万円を超えれば法人税のほうが税率は低くなります。
このように、事業所得や売上高は、法人化を検討するための重要な目安となります。
脱毛サロンを法人化するメリット
脱毛サロンの法人化には、以下のメリットがあります。
- 節税効果がある
- 社会的な信用が高まる
- 人材を確保しやすくなる
それぞれ詳しく見ていきましょう。
節税効果がある
前述のとおり、法人化は節税の面で大きなメリットがあります。個人事業主の所得税は所得に伴って上がり、最大税率は45%(4000万円超えの場合)ですが、これが法人であれば23.20%で済みます。
また、自分への給与を役員報酬にすることができ、それを経費計上できるため、利益をコントロールしやすくなるのも利点です。福利厚生や出張など、経費化できる範囲が広がるため、節税の選択肢が大きく増えます。
社会的な信用が高まる
法人化によって社会的な信用度が高まれば、取引先や金融機関からの信頼が向上し、資金調達がしやすくなるほか、賃貸物件の契約、企業との提携などにも有利に働きます。
また、屋号や名刺、ホームページなどに「株式会社」や「合同会社」といった記載ができることで、顧客の信頼感も得やすくなります。将来的な事業拡大を視野に入れたとき、法人化はブランディングの観点でも有効な手段になるでしょう。
人材を確保しやすくなる
法人化すると、雇用環境を整備しやすくなり、従業員を採用する際の信頼性が高まります。
たとえば、安定した雇用や社会保険への加入、キャリアステップの提示などは、美容業界の人材確保において重要です。法人であれば、社会保険や厚生年金の加入が義務化されているので、求職者にとって安心材料の一つになるでしょう。
また、法人組織として、明確な就業規則や評価制度を導入できるため、スタッフの定着率を上げることも可能です。
脱毛サロンを法人化するデメリット
脱毛サロンを法人化することによって、以下のようなデメリットも生じます。
- 設立費用がかかる
- 社会保険料が増える
- 赤字でも法人住民税を納税
- 会計処理が複雑になる
メリットとあわせて、しっかり把握しておきましょう。
設立費用がかかる
会社の設立時には、一定の初期費用が発生します。たとえば、株式会社の設立には20万円前後、合同会社は10万円ほどの費用が必要です。
このほか、手続きのために、司法書士や行政書士といった専門家への依頼費が生じるケースもあるでしょう。また、資本金として自己資金を出資する場合は、一時的に多額の費用が生じるので、経営の負担にならないよう計画しなければなりません。
社会保険料が増える
法人化すると、代表者も会社の従業員とみなされるため、健康保険や厚生年金といった社会保険への加入義務が生じます。会社と本人が半分ずつ保険料を支払うことになるので、多くの場合、個人事業主のときに比べて支出が増えます。
従業員を雇用する場合も、会社側の保険負担が発生するため、事業規模に応じて慎重に検討しなければなりません。
赤字でも法人住民税を納税
法人は、たとえ利益が出ていない赤字決算であっても、法人住民税の支払いが義務づけられています。これは地方自治体に対して支払う税金で、事業の実績に関係なく毎年発生するものです。
個人事業主であれば、赤字によって税負担が減りますが、法人化したばかりの企業では、コスト増につながる可能性があります。
会計処理が複雑になる
法人になると、会計や税務処理が複雑になります。帳簿の付け方や決算報告、法人税申告など、税務署に提出すべき書類の内容や形式が細かく定められており、知識がない状態で対応するのは困難です。
さらに、役員報酬の設定や経費計上のルールにも注意が必要で、正確な処理を怠ると、のちに税務調査で指摘を受けるリスクが高まります。
脱毛サロンを法人化する流れ
ここでは、個人事業主から法人になる流れを解説しています。必要な手順や手続きなどを確認しておきましょう。
会社形態を決めて必要な事務手続きを行う
法人化のステップとして、まず会社の形態を決めますが、多くの場合「株式会社」か「合同会社」で設立するのが一般的です。形態が決まったら、会社の商号(名前)、本店所在地、目的、役員などを定め、定款を作成します。
株式会社の場合は、この定款に対して認証を受ける必要があります。これらは会社の基本構造を決める大切なステップで、ミスや不備があると修正が難しいので、慎重に行いましょう。
資本金の払い込みと登記申請
設立の段階で決めた資本金額を、発起人の銀行口座(個人名義)に振り込み、その証明書類を準備します。その後、法務局に登記申請を行うことで、正式に法人になります。
この手続きでは登記書類や定款など、多くの書類が必要になるため、ミスがないように提出しましょう。書類に問題がなければ、そのまま登記が認められ、申請日が会社設立日となります。
会社の銀行口座を開設する
事業上の収支を明確に分けて適切な会計処理を行うため、会社名義の銀行口座を開設します。口座開設には、以下のものが必要です。
- 登記簿謄本(履歴事項全部証明書)
- 印鑑証明
- 会社実印
- 定款
法人口座の開設には審査があるので、Webサイトやパンフレットなど、企業の実態がわかる資料もそろえます。法人化後は、必ず法人名義の口座に切り替え、経理上の混同を防ぐようにしましょう。
個人事業主の廃業手続き・名義変更
法人の設立とともに、個人事業主の廃業手続きを行わなければなりません。税務署に「個人事業の廃業届出書」を提出し、あわせて青色申告の取りやめ手続きも行います。
また、次のような個人名義の契約などがある場合は、速やかに法人名義へと変更してください。
- 物件の賃貸契約
- 脱毛機器のリース契約
- 各種保険 など
これを怠ると、経費処理や契約更新時にトラブルが発生する可能性があるため、早めにリスト化して一つひとつ対応していきましょう。このほか、脱毛機器や備品といった所有する資産は、個人から法人へ売却するなどして譲渡する必要があります。
各種保険への加入手続き
脱毛サロンを法人化した場合、従業員が代表者1人であっても、社会保険の加入義務が発生します。法人化に伴い、健康保険と厚生年金に加入しますが、スタッフがいる場合は、雇用保険と労災保険の手続きも必要です。
手続きには、ある程度の時間と書類の準備が必要なため、開業前後の忙しい時期でも計画的に進めなければなりません。これらの保険への未加入は、法的なリスクにつながるため注意が必要です。
脱毛サロンの法人化は慎重に検討
脱毛サロンの売り上げが一定以上になったら、法人化を検討するとよいでしょう。法人化には、節税効果が得られる、社会的信用が向上するといったメリットがあります。
ただし、社会保険への加入義務が生じたり、会計処理が個人事業主と比べて複雑になったりするため、慎重に検討する必要があります。
法人化においては、さまざまな手続きや申請が必要になりますが、書類に不備があるとスムーズに進みません。必要に応じて、専門家に相談するといった手段を講じながら進めていきましょう。